日本との比較で見えてくる、働き方の文化的・経済的違い
近年、日本では「氷河期世代」と呼ばれる層の正社員と非正規社員との格差が社会問題となってきました。特に給与・雇用の安定性・老後の年金格差が議論され、政策的な是正も進められつつあります。
では、タイではどうなのでしょうか?
今回は、タイにおける正社員・非正規雇用・アルバイトの違いや待遇、そして日本の働き方との比較を通じて、東南アジアにおける雇用のリアルに迫ります。
タイの雇用形態の分類
タイでは雇用形態が日本ほど明確に「正規/非正規」と区別されていない部分もありますが、おおむね以下の3タイプに分けられます。
タイの雇用形態 |
概要 |
日本との対応関係 |
ประจำ(プラジャム)=正社員 |
フルタイム雇用で福利厚生あり |
正社員 |
ลูกจ้างรายวัน/พนักงานชั่วคราว(臨時職) |
契約制または日雇いのスタッフ |
|
พนักงานพาร์ตไทม์(パートタイム) |
アルバイト、短時間労働者 |
学生バイトや副業的な雇用 |
特に注意すべきは、"契約社員"という概念が広義すぎて待遇差が激しい点です。
給与格差と雇用安定性の違い
タイの場合
- 正社員(ประจำ)は、基本給+社会保険+ボーナス(年1〜2回)が一般的。
- 非正規雇用者(日雇い・臨時スタッフ)は、時給制で福利厚生がないことが多い。
- パートタイムは最低賃金(バンコクで1日370〜400バーツ程度)ベース。
※2025年現在の最低賃金の一例:
バンコク=約370バーツ/日(約1,500円)
→ 年金制度(社会保障)への加入がない非正規労働者は、将来の保障が非常に乏しいのが実情です。
日本の場合(参考)
タイ企業の雇用文化と昇進の現実
一方、日本ではまだ「年功的昇給制度」や「終身雇用文化」の名残があり、安定重視の傾向が根強いです。
外国人雇用者(日本人含む)の立場
- タイに在住する外国人は、基本的にワークパーミット(労働許可証)ありきでの正社員雇用。
- 外国人に対して非正規(アルバイト)の機会はほぼ存在しない。
- 一部の日本語教師や観光業などで「契約社員」扱いの日本人も。
※不法就労や条件に反する業種就労は厳しく取り締まられる傾向にある。
年金・老後における格差
日本では非正規社員の厚生年金未加入問題が深刻ですが、タイではそれ以上に根が深いです。
項目 |
タイ(非正規) |
日本(非正規) |
任意加入だが未加入多数 |
条件付きで厚生年金加入可 |
|
年金 |
国民年金相当の支援制度も未整備 |
国民年金制度あり |
老後支援 |
家族に依存が前提 |
年金・生活保護の制度あり |
→ タイでは、老後も働き続ける必要がある層が多いのが現実です。
まとめ:タイと日本、どちらが働きやすい?
視点 |
タイ |
日本 |
雇用の柔軟性 |
高い(転職しやすい) |
中程度(転職に抵抗感) |
雇用の安定性 |
低い(非正規の立場が弱い) |
高い(非正規でも最低限の保護) |
年金・将来保障 |
弱い |
比較的強い |
良好(有給取得率高め) |
分野により大差あり |
タイでは、正社員と非正規の格差が社会問題化していないように見えますが、その背景には社会保障制度の脆弱さと労働市場の柔軟性があります。
今後、日本のように中高年の非正規労働者が老後の不安に直面する構造的課題が、タイでも顕在化していく可能性があります。