2025年現在、タイではAI(人工知能)を悪用したオンライン詐欺が急増し、国も銀行振込の上限設定・詐欺防止法などの対策を加速させています。さらに「詐欺を行うための施設(scam compound/fraud factory)」や人身取引・虚偽求人を使った手口も問題になっています。日本や他ASEAN国と比べたときにどこが似ていてどこが異なるのか、旅行者・在住者双方が知っておくべきポイントを整理します。
タイのオンライン詐欺・振り込め詐欺の現状
以下は、最近報じられている主要な動きと実態です。
主な事例・特徴
- AIツールを用いた詐欺
- タイ-ミャンマー国境付近の詐欺施設で、ChatGPTなどAIチャットツールが被害者をだますためのメッセージ作成や対応で使われているとの報道。被害者に投資話(特に暗号資産)を持ちかける「pig butchering」(長期的に信頼を築いて欺くタイプの詐欺)などが典型例。 Reuters
- AIによる詐欺電話(AI音声)で家族や公的機関を名乗るケースも。 nationthailand
- 詐欺施設・“scam compounds”/強制労働との結び付き
- ミャンマー-タイ国境に多数の「詐欺工場」が存在し、偽の就職話で人を誘い出し、そこで働かせ詐欺をさせるなど、被害者が加害者として使われるケースが多数。労働条件が極めて悪いとされ、人身取引の要素を伴うものも多い。 ガーディアン
- これら施設にいる外国人被害者の帰国手続きが行われている(数千人規模) AP News
- 銀行振込取引の上限設定など制度的対策の動き
- タイ中央銀行が、オンライン送金における日当たりの送金額上限を設ける決定を発表(低リスクプロファイルには 50,000 バーツ前後 ≒1,500 USD といった額)を含む。これにより一度に多額を詐欺業者に送ることを防ぎ、被害の拡大を抑える意図。 AP News
- 「詐欺メール」「フィッシング」「偽求人」など従来型の詐欺も継続
- AIを使って信頼性を偽装する詐欺メール/チャットの精度が上がっており、被害者を騙す速度・手法が巧妙化しています。 Reuters
- 政府・捜査機関の対応
被害者の特徴・規模
- 年齢層が広く、特に高齢者や社会経験の浅い人が狙われやすい。
- 海外在住者や外国人も被害に巻き込まれるケースあり。
- 被害額の合計がタイ国全体で数十億バーツ規模に上るとの見方。具体的な公表額は流動的。
日本との比較
以下は日本におけるオンライン詐欺・振り込め詐欺の状況と、タイとの共通点・相違点です。
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項目 |
日本の状況 |
タイとの共通点・相違点 |
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詐欺の種類・手口の変化 |
フィッシング詐欺、架空請求、オレオレ詐欺(振り込め詐欺)、偽サイト・偽App、偽の公的機関からの電話などが健在。近年、メールやSMSでの詐欺が増加。 AI生成の偽音声や偽動画も実験例が報告されてきている。 gasa.org |
タイも同様だが、特に「詐欺施設(compound)」を使って大規模・組織的に行われている点、日本より重度。AIチャットの活用による即応性・偽装性の高さがより問題。 |
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制度・法の対応 |
金融庁・警察がフィッシングサイトの閉鎖、偽アプリの監視、消費者講習など比較的整備されてきている。被害者保護・返金・相談窓口などもある程度機能。 |
タイは上限送金制度・国境施設への供給遮断・詐欺防止法など最近制度を強化中。だが、詐欺施設の物理的な摘発が難しい地域がある。 |
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被害の規模 |
国民一人ひとりの被害件数・金額は大きいが、国際詐欺施設や人身取引と結びついた大規模組織的詐欺はそれほど表に出ていない。 |
タイ/近隣国では、人を騙して施設に誘導し、強制的に詐欺行為をさせるケースが多数報告されており、被害の国際化・組織化が顕著。 |
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可視性・報道・注意喚起 |
メディア・官公庁が定期的に注意喚起を行い、例えば「フィッシング詐欺サイト」「振込先偽サイト」などの事例を公開。教育・広報活動も比較的進んでいる。 |
タイ政府や関係機関も同様に注意喚起を行っており、最近ではSNSや国際協力を介した摘発や被害者の帰国支援の報道が目立つ。だが、言語・文化の壁で被害者が助けを求めにくいケースも。 |
ASEAN諸国の類似・関連事例
タイだけではなく、ASEAN域内では次のような類似・派生する詐欺・犯罪活動が報告されています。
- ミャンマー、ラオス、カンボジアなど:タイと同じような「詐欺施設」が存在し、外国人/地元住民が雇われて詐欺メール・偽投資・偽求人などに従事。人身取引的な被害も含む。 The Australian
- 偽の求人・モデル契約詐欺:被害者を海外へ連れて行き詐欺施設に閉じ込めるケース。例えば中国人俳優を騙して詐欺施設に送られた「Wang Xing」事件など。 ウィキペディア
- 声を模倣するAI音声詐欺/身内を名乗る電話詐欺:タイだけでなくASEAN諸国でも報告あり。 nationthailand
何が悪化させているのか:タイの特殊条件
タイ/近接地域ならではの事情もいくつか:
- 国境地帯の規制が弱い地域:ミャンマー国境など、政府の統治が行き届いていない地域で“詐欺工場”が設立されやすい。
- 通信インフラの発展とスマホの普及:オンライン詐欺・チャット詐欺・ビデオ詐欺などを行いやすい土壌。
- AI/生成系技術の悪用:メッセージの自動生成・音声/声の模倣などで被害者からの信頼を早く得やすい。
- 金融制度のギャップ・送金の即時性が高いため、一度お金を送ると回復が難しい。
対策と旅行者・住民ができる注意点
政府・制度側の対策
- オンライン送金の上限設定(例:タイで日額50,000バーツ等)を設け、リスクの高いユーザーに対する追加情報確認。 AP News
- 国境地帯の詐欺施設への燃料・電力・インターネット供給の遮断。摘発や被害者の帰国支援。 Reuters
- 法律・規制の強化、AIツール利用時の監視制度。
個人(旅行者・住民)の注意点
- 募集・求人・投資話に安易に「良い条件」を信じない。特に「リモートで高収入」「演技モデル」「急に仕事を紹介」などの話には注意。
- 声・メッセージを通じて家族を名乗る「緊急事態」詐欺では、直接本人に別方法で確認する。
- オンライン転送(銀行送金・仮想通貨送金)は慎重に。送金先の信頼性調査をし、可能であれば少額を試す。
- アプリやサイトが本物かどうかを確認する(公式サイト/口コミ/評判)。
- 個人情報やパスポートデータを不確かな相手には開示しない。
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タイでのオンライン詐欺・振込詐欺は、ただ個々のケースが増えているだけでなく、「組織的」「AI悪用」「人身取引との結び付き」などで非常に質が悪化しています。日本もまた詐欺被害は深刻ですが、主に通信・偽サイト・メール・電話といった従来型のものが中心で、旅行者を現地施設に誘ったり強制労働させたりするケースは比較的少ない、という点で差があります。
ASEAN全体ではこれら犯罪が拡大しており、国際協力・制度整備・旅行者自身の警戒が不可欠です。





